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東京高等裁判所 昭和54年(ネ)168号 判決 1981年4月27日

控訴人

日特建設株式会社

右代表者

片岡武

右訴訟代理人

野田満男

被控訴人

共同建設株式会社

右代表者

梅田良雄

右訴訟代理人

園山潔

外一名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は「原判決を取消す。被控訴人は控訴人に対し、金四九九万七、六二五円、及び内金四二四万八、六二五円に対する昭和五一年一二月六日から、内金七四万九、〇〇〇円に対する昭和五二年一月一一日から、いずれも完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠関係は、次に付加するほか、原判決の事実摘示のとおりであるので、これを引用する。但し、原判決三丁裏七行目の「四九九万七二六円」を「四九九万七六二五円」と訂正する。

(控訴人の主張)

一  東洋鋼管建設は、控訴人との間で本件下請工事契約を締結するにつき、本件企業体を代表(代理)する権限を有した。

すなわち、建設共同企業体の代表者は同企業体の業務執行につき当然に同企業体を代表(代理)する権限を有するところ、東洋鋼管建設は本件企業体の代表者であり、また、本件下請工事は本件企業体が受注した工事の下請工事であるから、本件下請工事の発注行為は本件企業体の業務執行行為にほかならない。従つて、東洋鋼管建設は本件下請工事契約を締結するにつき当然に本件企業体を代表(代理)する権限を有したものである。

二  東洋鋼管建設は、本件企業体を代表(代理)して控訴人との間で本件下請工事契約を締結した。すなわち、

1  本件企業体においては次に述べるとおり各構成員の単独分担工事部分なるものは存在しないから、本件下請工事契約が単独分担工事部分の施工者としての東洋鋼管建設と控訴人との間で締結されたものと解する余地はない。

建設共同企業体には甲型(全構成員が一体となつて合同計算により工事を共同施工する方式)と乙型(工事を分割して各構成員が分担施工する方式)とがあり、甲型の場合には、乙型の場合のように工事を分担施工するものではないから、各構成員の単独分担工事部分なるものは存在しない。本件企業体は甲型の建設共同企業体であるから、その構成員たる東洋鋼管建設の単独分担工事部分なるものは存在しないのである。

2  仮に、本件企業体にも構成員の単独分担工事部分が存在し、本件下請工事契約が東洋鋼管建設の単独分担工事部分について締結されたものであつたとしても、東洋鋼管建設は本件企業体が受注した工事を、本件企業体とは別箇に独自の業務執行として施工したものではなく、本件企業体の業務執行として施工したものである。このことは、東洋鋼管建設が工事現場に本件企業体の施工である旨の工事標識板を設置し、下請業者である控訴人の工事報告書に、総合施工者は本件企業体である旨の表示をさせ、工事現場に本件企業体の構成員である東洋鋼管建設と被控訴人との各社名入りの建設用シートを共に張り廻したことなどの事実からも明らかである。従つて、本件下請工事の発注についても、東洋鋼管建設は、本件企業体の業務執行として、同企業体を代表(代理)して控訴人と契約を締結したものというべきである。

3  また、甲型共同企業体の受注工事に関しその構成員から下請工事の発注があつた場合、それが当該構成員の単独分担工事部分につき独自の業務執行としてなされたものであつたとしても、そのことは甲型共同企業体の本来の性格からして外部の者には一向に明らかではなく、特に当該構成員が共同企業体の代表者である場合にはなおさらである。従つて、本件下請工事契約のように甲型共同企業体の代表者によつて締結された下請工事契約は、特段の事情がない限り、同企業体を代表(代理)して締結されたものとみなすべきである。そして、本件の場合、下請工事の発注が東洋鋼管建設の単独分担工事部分につきその独自の業務執行としてなされたものであつたとしても、そのような事実は控訴人の全く知らないところであつたし、右の特段の事情はなかつた(注文書や注文請書に注文者として本件企業体の表示がなく東洋鋼管建設の社名のみが表示され、代金支払のための約束手形も同社の単独名義で振出された事実はあるが、そのような事例は共同企業体の発注の場合に通常みられるところであり、特に手形の振出は共同企業体の名義ですることはできないから、いずれも前記の特段の事情には当らない)。

三  仮に本件企業体が、東洋鋼管建設と被控訴人の合意により、東洋鋼管建設を実際上の単独施工者とするペーパージョイント(表面上は共同企業体による共同施工を装いつつ、実際は特定の構成員が単独で工事を施工するもの)と化されていたとしても、当事者である被控訴人はそのことをもつて第三者である控訴人に対抗することができず、本件企業体の構成員としての責任を免れないものである。何となれば、ペーパージョイントはそれ自体違法な存在であつて、法の保護に値しないものであり、また、ペーパージョイントの当事者はあたかも共同企業体が工事を施工しているかのように仮装し、ペーパージョイントの事実を極力外部に隠蔽するため、その事実が第三者にとつて一向に明らかではない(本件の場合も当然のことに控訴人は本件企業体がペーパージョイント化されていることを全く知らなかつた)からである。そもそも、ペーパージョイントなるものは、当事者間にしか存在しないものであつて、第三者に対してはその善意・悪意を問わず一切これを主張することができず、その当事者は本来の共同企業体構成員としての法的責任を負うものというべきである。

(被控訴人の主張)

一  東洋鋼管建設は、本件下請工事契約を締結するにつき、本件企業体を代表(代理)する権限を有しなかつた。

すなわち、東洋鋼管建設は本件共同企業体協定書第六条により本件企業体の「代表者」とされているが、右代表者は同協定書第七条により、「建築工事の施工に関し、当企業体を代表して、発注者及び監督官庁等と折衝する権限並びに自己名義をもつて請負代金の請求、受領及び当企業体に属する財産の管理をする権限」を付与されているにすぎず、右以外の事項については、当然に代表権(代理権)ないし業務執行権を有するわけではない。下請工事の発注その他の業務執行は、同協定書第九条により構成員たる東洋鋼管建設と被控訴人とで組織される運営委員会の権限とされているところ、本件下請工事の発注については被控訴人は何ら関与していない。従つて、東洋鋼管建設は本件企業体を代表(代理)して本件下請工事契約を締結する権限を有しなかつたものである。

二  東洋鋼管建設は、本件企業体を代表(代理)して本件下請工事契約を締結したものではなく、同社の単独名義で同契約を締結したものである。

1  本件下請工事契約は東洋鋼管建設の単独担当工事について締結された。

建設共同企業体の結成に当つては建設省から示された甲型(共同施工方式)又は乙型(分担施工方式)の共同企業体協定書のひな形が利用されることが多いが、その場合にも、個々の共同企業体の法律関係を協定書の形式だけで決すべきではなく、構成員の結合状態、共同施工の実質等から実体に即して解釈することが必要である。建設共同企業体には、主として大規模の工事につき大手建設業者が、その技術力・資本力の結集と危険の分散を図るため任意かつ自主的に結成する本来の形態のもののほかに、本件企業体のように、不況時等における中小建設業者の救済対策として、その受注機会の増大を図るため、従来一業者に請負わせていたような小規模の官公庁工事についても、業者に共同企業体を組ませてこれに請負わせるという政策がとられたことにより、その受注のために結成されるものがある。そして、後者の場合は、受注者の数を増大させるために建設共同企業体(甲型)の形式が利用されているにすぎないのであり、また、受注後当該工事の施工に発注者が関与しないこともあつて、純然たる共同施工の場合だけでなく、各構成員の技術力、手持工事の状況等から、工事の全部又は一部につき各構成員が工事分担を決めて施工することもあるのである。従つて、甲型協定書の存在を理由に単独担当工事があり得ないとすることはできない。

2  建設共同企業体は通常民法上の組合と解されているところ、民法上の組合にあつては、対外的な法律行為は、組合員全員の名義でするか、少なくとも組合名を表示してすることを要する。しかるに、東洋鋼管建設は本件下請工事契約を締結するに当り、被控訴人や本件企業体の名称を何ら表示していない。本件下請工事の見積書、注文書、注文請書等には注文者として東洋鋼管建設の社名のみが表示されるなど、通常同社が単独で工事の発注をする場合と同一の形態で処理され、工事の発注、打合せ、管理等に当つたのは同社のみであつて、被控訴人はそれらに全く関与しておらず、また、工事代金の支払も東洋鋼管建設が単独で振出した約束手形によつてなされた。

三  しかも、本件企業体にあつては、東京都からの工事受注後間もなく、構成員である東洋鋼管建設と被控訴人の合意により、被控訴人は出資をせず、利益分配も受けず、右工事はすべて東洋鋼管建設が単独で施工するものとされたから、本件下請工事契約の締結当時すでに本件企業体そのものが解消していたのである。

そして、控訴人は本件下請工事が本件企業体の発注であると信じて同工事契約を締結したものではなく、東洋鋼管建設の単独発注であることを十分に知りながら同工事契約を締結したものであり、仮に知らなかつたとしても、それについて重過失があるというべきである。

(証拠関係)<省略>

理由

一控訴人、被控訴人及び東洋鋼管建設は、いずれも土木建設工事の請負等を業とする者であること、建設省は、二以上の企業者が共同連帯して工事を施工するために用いられる一種の共同経営方式である建設共同企業体(ジョイント・ヴェンチャー)の結成を指導してきたこと、被控訴人及び東洋鋼管建設は、右の趣旨の建設共同企業体である東洋・共同建設共同企業体(本件企業体)を結成し、東洋鋼管建設をその代表者と定めたこと、本件企業体は、昭和五一年三月ごろ、東京都から都営住宅(大森南一丁目)工事を代金二億六、五〇〇万円で請負つたことは、いずれも当事者間に争いがない。

二<証拠>を総合すると、次の事実を認めることができ<る。>

1  建設省は建設共同企業体の結成を指導するについて、構成員間で締結されるべき共同企業体協定書のひな形として、甲型(全構成員が一体となつて合同計算により工事を施行する共同施工方式のもの)と乙型(各構成員が工事を分割して施行する分担施工方式のもの)との二通りの「標準共同企業体協定書」を示してその利用を勧めており、実際上建設共同企業体の結成に当つては多くの場合右のひな型が用いられている。

2  ところで、東京都は、いわゆるオイルショック以後の不況で建設業界における受注が減少したため、昭和五〇年六月頃から中小建設業者救済の政策として、従来一つの業者に受注させていたような工事も複数の業者に請負わせるべく、発注に際し複数の業者に建設共同企業体を結成させるようになり、その方法として、予め資本金、実績等の観点からAないしEの五段階に格付けした業者から、具体的な工事の発注に際し、工事の地域、規模、難易等を考慮して指名した各数社から成る数グループを分け、各グループの各一社宛の提携による建設共同企業体を結成させ、これらの企業体に競争入札をさせていた。

3  昭和五一年二月一八日頃、東京都は、都営住宅(大森南一丁目)の建築工事をする建設共同企業体を結成させるべく、比較的大手企業である東洋鋼管建設ほか九社(いずれも右A段階に属する。)を第一グループの業者として、中小企業である被控訴人(資本金四、八〇〇万円)ほか九社(そのうち、被控訴人ほか六社は右B段階に属し、その余の三社はC段階に属する。)を第二グループの業者としてそれぞれ選定し、それらの各業者に対し、右選定の結果を通知するとともに、第一グループの一社と第二グループの一社とが適宜に提携して共同施工方式(甲型)の建設共同企業体を結成したうえ、同月二四日までに工事入札参加審査申請書を提出するよう要請した。

4  右の通知要請を受けた被控訴人は、当初右第一グループに属する会社で従来から交際のあつた訴外石原建設株式会社との間で共同企業体を結成する意向であつたが、東洋鋼管建設の勧誘を受け、従来取引のなかつた同社との提携を希望しなかつたものの、業界の慣行上右申入を拒絶することは事実上困難であつたため、落札しないことを予期して同社と共同企業体を結成し、同年二月二四日東京都に対し、同社と連名して建設工事共同請負入札参加資格審査申請書を提出した。

5  右申請に際し、被控訴人は、東洋鋼管建設に対し、同年二月二四日から同年三月三一日までの間、右建築工事の見積り及び入札並びに東京都との契約などについて被控訴人を代理する権限を委任し、かつ、前記の標準協定書(甲型)をそのまま利用して東洋鋼管建設との間に左記事項などを内容とする建設共同企業体協定を締結し、その旨を東京都に届出た。

(一)  当企業体は、東洋共同建設共同企業体と称し、建設事業を共同連帯して営むことを目的とする。

(二)  当企業体は、昭和五一年二月二四日に成立し、その存続期間を原則として一年とし、事務所を東京都八王子市横山町一九番七号(東洋鋼管建設の住所地)に置く。

(三)  当企業体は、東洋鋼管建設と被控訴人とを構成員とし、東洋鋼管建設を代表者とする。

(四)  当企業体の代表者は、建設工事の施行に関し、当企業体を代表して、発注者及び監督官庁等と折衝する権限並びに自己の名義をもつて請負代金の請求、受領及び当企業体に属する財産を管理する権限を有するものとする。

(五)  当企業体の構成員の出資の割合は、東洋鋼管建設が六〇パーセント、被控訴人が四〇パーセントとする。

(六)  当企業体は、構成員全員をもつて運営委員会を設け、建設工事の完成に当るものとする。

(七)  各構成員は、建設工事の請負契約の履行に関し、連帯して責任を負うものとする。

(八)  当企業体の取引金融機関は、三和銀行八王子支店とし、代表者の名義により設けられた別口預金口座によつて取引するものとする。

(九)  当企業体は、工事竣工の都度当該工事について決算するものとし、決算の結果利益を生じた場合には、前記出資の割合により構成員に利益金を配当し、決算の結果欠損金を生じた場合には、同割合により構成員が欠損金を負担するものとする。

(十)  本協定に基づく権利義務は他人に譲渡することはできない。

(一一)  構成員は、発注者及び構成員全員の承認がなければ、当企業体が建設工事を完成する日までは脱退することができず、構成員のうちいずれかが工事途中において右により脱退もしくは破産又は解散した場合においては、残存構成員が共同連帯して建設工事を完成する。

(一二)  当企業体が解散した後においても、当該工事につきかしがあつたときは、各構成員は共同連帯してその責に任ずるものとする。

(一三)  本協定に定めのない事項については、運営委員会において定めるものとする。

6  同年三月四日、前記各指名業者によつて構成された一〇個の建設共同企業体が前記都営住宅の建築工事の入札に参加したが、その結果は被控訴人の予期に反し本件企業体の落札となつた。その落札価格は二億六、五〇〇万円であつたが、これは東洋鋼管建設が被控訴人に事前に相談しないで決めた金額であり、しかも適正な工事見積額を大幅に下廻る額であつたため、被控訴人は東洋鋼管建設に対し、右落札金額では到底責任をもつて工事を施工することができないので受注を辞退してほしい旨を申入れたところ、同年三月五日、東洋鋼管建設は被控訴人に対し、両者間に締結された前記協定にかかわらず、東洋鋼管建設が単独で工事一切を施工することとし、被控訴人は何らの責任を負わないものとする旨を誓約し、その旨の覚書が両者間に交わされた。

7  右覚書に従い、被控訴人は、出資をせず、利益配当を受けず、工事を担当することもなく、僅かに被控訴人名の入つた現場用の保護シート約一〇枚を東洋鋼管建設の求めにより同社に貸与しただけであつて、工事施工の一切、従つて下請工事の発注やその代金の支払等もすべて東洋鋼管建設が単独で担当し、本件企業体は実質上解消されるに至った。

8  右のように前記都営住宅の建設工事を単独で施工することとなつた東洋鋼管建設は、右工事のうちアースドリル杭工事等の下請工事を、従来取引関係はなかつたが杭打工事における東京都の指定業者である控訴人に発注することとし、その申入れをした。右申入れを受けた控訴人は、東洋鋼管建設とは初めての取引であるため、会社年鑑等の資料により同社の支払能力について調査したところ、資本金(二億円)や工事量等からみてかなり大きい会社であつて信用できると判断されたので、前記の申入れを受け入れることとした。なお、控訴人は前記都営住宅の建設工事が本件企業体に発注されたことを業界新聞の記事によつて知つていたが、本件企業体の名称に「東洋」の文字が上に置かれていることから東洋鋼管建設が同企業体を構成する主力業者であると認識しており、もう一方の構成員である被控訴人に関しては、控訴人が通常取引の対象としない小規模の会社として関心を持たず、未知の会社であつた同社の信用度について何らの調査もしなかつた。

このようにして、同年四月二〇日アースドリル杭工事一式を代金九五〇万円で、次いで同月二七日仮設道路工事一式を代金五〇万円で、それぞれ控訴人に請負わせる契約(本件下請工事契約)が締結された。

その際、東洋鋼管建設は本件下請工事契約における注文者が同会社単独であることを特に明言はしなかつたが、同会社単独名義の注文書を控訴人に交付し、控訴人も宛先を東洋鋼管建設の単独名義とした工事費見積書や注文請書を同会社に交付した。その後、東洋鋼管建設は前記下請代金のほぼ半額を現金で支払い、残代金四九九万七、六二五円については、その支払のために、同年六月三〇日及び七月三一日の二回にわたりそれぞれ金額四二四万八、六二五円及び七四万九、〇〇〇円の各一通の約束手形(その後不渡りとなる)を控訴人に交付したが、右約束手形はいずれも東洋鋼管建設の単独名義で振出したものであつた。

もつとも、東洋鋼管建設は本件工事現場に本件企業体の施工である旨の工事標識板を掲げていたし、同現場における建築中の建物に、同会社名の入つた保護シートに交ぜて、被控訴人から借受けた前記被控訴人会社名の入つた保護シートを張り廻した(ただし、保護シートを張つたのは本件下請工事が完了した後のことである)。また、控訴人が作成提出した本件下請工事の完了報告書には、総合施工業者として本件企業体名が記載されている。

9  東洋鋼管建設は、昭和五一年九月及び一一月の二回にわたり東京都から工事代金の一部合計七、〇六〇万円を受領したが、工事途中において、経営不振のため同年一二月五日倒産し、翌昭和五二年一月二四日破産宣告を受けた。

被控訴人は、右倒産後、東京都に対し、右建築工事は東洋鋼管建設が単独で施工していた旨を報告し、また前記協定によれば本件企業体の構成員として残工事完成の責任を負つていたものの、東京都側の勧告により請負人を本件企業体から被控訴人に改めることとし、昭和五二年二月二二日、東京都との間で右残工事を代金九、六二一万円で請負う旨の契約を締結し、その工事を完成した。

三ところで、控訴人は、東洋鋼管建設が本件企業体を代表(代理)して本件下請工事契約を締結したものである旨(あるいは、そのようにみなすべきである旨)主張するが、前認定の事実関係及び本件の全証拠によつても、右主張を肯認することができない。すなわち、

1  前示のように、東洋鋼管建設と被控訴人は本件企業体(その法的性質は民法上の組合と解される)を結成し、東洋鋼管建設をその代表者と定めて、東京都から工事を受注したが、受注後間もなく両社の合意により、右工事はすべて東洋鋼管建設が自己の計算において単独で施工し、被控訴人は何らこれに関与しないものとしたため、本件企業体は実質上解消され、本件下請工事契約は、その後に、東洋鋼管建設が自己の計算において単独で施行する右工事の一部について締結されたものである。右の事実からすれば、東洋鋼管建設は、本件下請契約を締結するに当り控訴人に対して、ことさら本件企業体のためにするものであることを示すような言動や態度をとつたのでない限り、自己(単独)のためにする意思で右契約を締結したものと解するのを相当とするところ、右のような言動や態度をとつた事実を認めるに足りる証拠はない(工事現場に本件企業体の施工である旨の工事標識板を掲げたことは、その性質上右の事実に当るものとは解されず、現場用の保護シートの件や工事完了報告書の件も、本件下請工事完了後のことであつて、右の事実には当らない)。むしろ、東洋鋼管建設が控訴人に対し交付した注文書、控訴人から交付を受けた工事費見積書や注文請書にはいずれも東洋鋼管建設のみが注文者として表示されるなど、通常同社が単独で工事の発注をする場合と変らぬ形態で処理されたこと、前示のとおりである。

2  控訴人は、甲型の共同企業体においては、全構成員が一体となつて工事を共同施工すべきものであるから、個々の構成員の単独分担工事部分はありえない旨、また、いわゆるペーパージョイントは違法な存在であるから、構成員間の合意により特定の構成員が単独で工事全部を施工することとしても、そのことを第三者に対して主張することは許されない旨主張する。

甲型の共同企業体が本来全構成員一体となつて工事を共同施工する形態のものであることは前示のとおりであり、同企業体として受注した工事の施工につき構成員間の合意により右と異なる定めをしても、各構成員が当該請負契約に基づき注文者に対し負担する責任に何ら変動をもたらすものでないことは、いうまでもないところである。しかし、そのことから直ちに、右に述べたような構成員間の合意やそれによる工事施工の実態を第三者に対して主張することは全く許されないものとすることは、妥当ではない。本件企業体が結成された経緯は前記二の2ないし5において認定したとおりであるが、これに、<証拠>を合わせると、この種の共同企業体は、業者がその技術力や資本力等を結集すべく任意かつ自主的に結成する本来の形態のものと異なり、東京都が中小建設業者の受注機会の増大を図るため業者に共同企業体を組ませてこれに官公庁工事を発注するという政策をとつたことにより、その受注のために結成されたものであつて、その結成については東京都が当該工事につき選定した限られた業者の中から短期間内に相手を選んで共同企業体を組まなければならないという制約があることや、技術力、資本力等に相当の格差がある業者が共同企業体を組むものとされていることなどの事情から、この種の共同企業体には、その協定書として標準共同企業体協定書(甲型)がそのまま用いられていても、実際には、右協定書に定める合同計算、共同施工等の原則どおりに運営されないものが多く、いわゆるペーパージョイントと目される共同企業体も少なくない実情であつた(全体の約七割がペーパージョイントであるとする新聞記事すらあつた)ことが認められる。右の実態に即して考えると、本件企業体においてその受注工事を構成員間の合意により東洋鋼管建設が単独で施工するものとしたことが、注文者の東京都に対する債務不履行となることはあるとしても、右合意による工事施工の実態を第三者である控訴人に対し主張しえないとすべきほどの違法性を帯びるものとは断じ難く、本件の場合控訴人の前記主張は採用することができない。

3  控訴人は、また、本件企業体の受注工事が東洋鋼管建設の単独施工工事とされたことは外部の者には明らかではなく、控訴人は共同企業体の外観を信じて本件下請工事契約を締結したものであるから、右の信頼を保護されるべき旨主張するものと解される。

しかし、前示のとおり、本件企業体は東京都の格付で第一グループに属する比較的大手企業である東洋鋼管建設と第二グループに属する中小企業である被控訴人とが結合したものであつて、控訴人も東洋鋼管建設が本件企業体を構成する主力業者であるとの認識を有しており、東洋鋼管建設から本件下請工事の発注の申入れを受けた際、専ら同社の支払能力について調査を行い、信用できると判断した結果右申入れを受け入れることとしたものであつて、もう一方の構成員である被控訴人に関しては、控訴人が通常取引の対象としない小規模の会社として関心を持たず、未知の会社であつた同社の信用度について何らの調査もしなかつたものである。右の事実からすれば、控訴人は専ら東洋鋼管建設の支払能力に着目して本件下請工事契約の締結に応じたものというべきであつて、同契約における注文者が被控訴人を加えた本件企業体であると信じ、その信頼に基づいて同契約を締結したものとはいい難く、右判断を左右するに足りる証拠はない。

してみると、控訴人の前記主張はその前提を欠くものであつて、採用することができない。

四以上に説示したとおり、東洋鋼管建設が本件企業体を代表(代理)して本件下請工事契約を締結した事実は認められないから、右事実を前提とする控訴人の本訴請求は、その余の点につき判断するまでもなく、失当であつて、棄却を免れない。

よつて、右と同旨の原判決は正当であり、本件控訴は理由がないから、民訴法三八四条に従いこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき同法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(村岡二郎 宇野榮一郎 清水次郎)

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